
写真は「人月の神話」
先日、研究室を卒業し医療情報関係の情報システムのシステムエンジニアとして活躍している新進気鋭のK君と会う機会があった。談はソフトウェアの開発プロジェクトについて及んだが、フレデリック・P. ブルックスJr.の 「人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない 」の話が出た。
通常のICT関係の技術の本というのはよくて三年ぐらいが賞味期限でそれをすぎるともう陳腐化してしまうといったことがよくある。ところがこの本が最初に刊行されたのは1975年で30年以上たった今日でもこの本の価値はさほど下がっていないというのはなぜだろう。残念ながらまだこの本の原著を入手していないが、原題は”The Mythical mon-month:essays on software engineering”となっている。業界でない人には”mon-month(人月)
”とは聞きなれぬ言葉だと思うが、今も昔もソフトウェアのプロジェクト管理のベースになるのはこの言葉だ。機会あって、ソフトウェアベンダーに職をもった某氏(33歳)と話していて、いまだそうだということを聞いた。まさにまだソフトウェアは神話の世界にあるような印象だ。この本の著者のブルックス氏は1931年生まれだそうだから、ソフトウェアが出現する草創期の人ともいえる。1944年、13歳で雑誌でハーバード・マークⅠというコンピュータの記事を読んでからブルックス氏のコンピュータ人生は始まったようである。そして、大学生になってIBMでアルバイトし、IBM604のプログラム実習と、IBM701のプログラム内蔵方式の最初のIBMマシンで正規のプログラム講習を受けたという。(*)
自分の場合は大学の数学科を卒業した姉が、就職で当時の就職先として大企業と、国立の研究所に合格して、その後国立の研究所に就職、電子計算機をやりだしたころから何となく気になりだしていた。昭和30年代後半(1960年代)になろうか。たしか日本の電機メーカーが国産で電子計算機に本格的に取り組みだしたのもこの頃からであろう。じだいはいわゆるメインフレームマシンの時代になっていった。

写真は「ムーアの法則」出典:ウィキペディア
ご案内のようにコンピュータの技術発展はムーアの法則などのように目覚ましいものがある。もっとも」この技術発展は主にハードウェアについてであってソフトウェアについては疑問が残るようだ。
さて、この本は著者も言っているようにエッセイであって、論文、教科書的なものではない。したがって、読む方にある程度の経験や知識がないと読みにくいということなるだろう。しかし、解説があり冨澤昇氏の述べているところはよくまとまっており、手っ取り早くはこちらを読んだ方がいいということにもなろうか。さはさりながら、解説はあくまでも解説でありこの本の魅力が全て伝わるものではない。したがって、拾い読みでもいいから読むとその含蓄のほどが理解できるようである。欧米の本というのは技術的なものであってもいわゆるリベラルアーツの香りがするものでこの辺の伝統に薄い我が国ではすんなり受け入れるのが難しい。副題は西洋での伝説の狼男についていっている。
満月の夜になると突然普通の人間が狼に変身するというあれである。欧州にはこのほかにかのドラキュラ伯爵などの吸血鬼伝説などもある。
閑話休題。
さて、無敵の狼男であるがこれを退治するには銀でできた銃弾が良いとされているようだ。ソフトウェアの困難さに向かうのにたとえて、そのような手段がないということ言っているわけである。
ソフトウェアエンジニアリングについて語るときプロジェクト管理ということが重要になってくる。いずれも科学的なものなのかどうかは、いまだに議論の尽きぬところだ。有名なのは「ブルックスの法則」である。これもいろいろ解釈の難しい所で、確かにプロジェクトが難しくなってくると要員不足が必ず問題になる。ここで要因投入すれば問題解決かというとそういうものではないことはこの種のプロジェクトを経験した人なら予想のつくところである。
(この稿未完)
注
(*)ブルックスJr., 滝沢・富沢・牧野訳[2003]p284
参考文献
(1)フレデリック・P. ブルックスJr., 滝沢徹・冨澤昇・牧野祐子訳[2003] 「人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない (Professional computing series (別巻3)) ピアソン・エデュケーション
(2)R・A・ハインライン、井上一夫訳[1985]「月を売った男」創元推理文庫